2015.07.31

「ジェームス・サーペル教授公開セミナー」の議事録が完成しました

◆ 開催日 ◆

2014年9月28日(日)

◆ 場 所 ◆

TKP市ヶ谷カンファレンスセンター

◆ プログラム1 ◆

講 師:麻布大学獣医学部教授 太田光明

テーマ:「日本における『ヒトと動物の共生科学』のあゆみ」

 太田光明・麻布大学教授:こんにちは。麻布大学の太田です。セットアップは座ってやれると言っていますので、座って話をさせていただきます。それと、予定では30分開始予定となっていますけど、先ほど司会の方から紹介がありましたように、サーペル先生の講演が、英語をちょっと話して、日本語をちょっと話すので、通常の倍かかるんです。したがって、ちょっと読めないので、私の話は早々に。

きょうは、8週齢とはあまり関係がないわけじゃありませんけど、一応、きょうのタイトルにありますように、「日本における『ヒトと動物の共生科学』のあゆみ」ということで、お話をしようと。一番話をしたいのが、現在、犬の飼育頭数が日本の場合、2007年以降、毎年減ってきています。後ほど、ある程度のデータを出して紹介しますけども、この状態があと12年間続くと、現在の犬の頭数は半分になる。そういう統計的なデータがあります。そういう意味じゃあ、大変よくない状態が今現在起きていて、なおかつ続いているということを紹介しつつ、それが、ひいては人の健康に影響するかもしれないという、そういった話をさせていただきます。

●犬と人間、すべての始まりは……

すべての始まりは、最初のスライドのところから始まっているんですけど、これはオオカミの子どもです。これを犬にしたのが、歴史的にはさまざまな説がありますけど、少なくとも1万5000年ぐらい前に、人間がオオカミから犬にした。まだ、いわゆる人類の文化を築く以前の問題ですけど。人間っていうのは、さまざまな偉大な業績を残してきたんですけど、私に言わせれば、最も偉大な業績の一つが、オオカミから犬をつくったということです。そういった意味で、私はいつもこのスライドを出しているんです。

その次が猫で、猫は比較的新しいですね。家猫の祖先は、リビヤヤマネコという、中東のほうにいるヤマネコなんですけれども、これが……。これは、幾つかの説があります。私は、古代エジプトの時代の、今から5000年ぐらい前だろうと考えていますけど。いずれにしても、こういった野生の生き物から、われわれの身近な動物として、犬と猫をつくったというのは、非常に大きな、人間のいわゆる業績であります。

こういった、数万年に及ぶ人と動物の関係っていうのがあるんですけど、私がきょう一番話をしたいのはこれなんですけど。この右側のほうのスライドですけど。これが現在、まあ実はこれ、もっと前があるんですけど、分かりやすいために、4年分というか。日本ペットフード協会というのがありまして、これは、ネットで見れば出てきますので。

で、この猫はそんなに減ってません。2010年が961万頭。それから、犬が、2010年で1186万頭いたんですけど。先ほど言いましたように、2007年ぐらいから除々に減ってきています。多いときでは7%ぐらい減ってきていて、その減る割合が一向に落ち着かないというか、減り続けているという状態です。2013年の状態で、約1000万頭です。このまま行くと、一つはっきり分かっていることは、猫の飼育頭数のほうが多くなるということで。ただ、それは世界的な、これが、左側の図が世界的なデータです。見づらいかもしれません。

黄色いこのアメリカ合衆国は、猫が8600万、犬が7800万で、猫のほうが多い。猫のほうが多い国を黄色くしてあるんです。黒いところは、依然としてまだ……。これは、ユナイテッドキングダムですけど、犬と猫が同数。これは人口が書いてありませんので、人口当たりにすると、もちろんアメリカが世界でトップであります。日本の人口当たりの数字は、そんなに少なくありません。いずれの機会にか、日本が、こういったアメリカとかロシアとか、フランス、カナダ、ドイツ、イタリー、これはネザーランド(オランダ)ですね、そういった国と同じように、猫のほうが増えるだろうと思います。

●「人と動物の関係学」という学問

いずれにしても、こういった状態があって、こういったことを学ぶ学問というのがあります。これは、私が麻布大学で、もう既に満15年間になるんですけど、学生さんに教えてきたのが、この人と動物の関係学。オリジナルの言葉はアンソロズーオロジーで、大変新しい学問です。そのことを若干示したのが、その次の……。

たかだか40年。まあ、40年たっていない。私の認識では、1979年のDundeeミーティングから、この学問が始まった。ここに書いてありますけど、これは、International Association of Human-Animal Interaction Organizations という国際組織です。これは、1990年に設立されて。突然これができるわけじゃなくて、その基盤が1979年から始まっている。これは、こういった英語名で、通常、われわれはこれを略して、頭文字でIAHAIOと略して、アイアハイオと言っていますが、言いづらいので、これが公式な和名です。当然、これがオリジナルの言葉で、日本語って人によって違うことを言うんですが、これだけに関しては決まっているので、そう言わなくちゃいけない。これは国際組織なんです。現在は43カ国が加盟しているという話ですが、詳細はよく知りません。

もう一つは、ISAZ(International Society for Anthrozoology)。このとき、1991年ですけど、ここにあるアンソロズーオロジーという、まあ造語です。Anthro が人類、Zoology が動物学ですので、こういった言葉が1991年に、学会の名前としてできた。現在は、オックスフォード辞書に載っていますので、いわゆる学問として周知されているというものであります。これが1991年。

そのあと、現在、極めて真面目な、このISAAT(International Society for Animal-Assisted Therapy)というやつですけど、これが2006年に広がる。日本の場合は若干遅れているんです。1990年に、人と動物の関係学会の大本であるIAHAIOができたんです。1990年です。1991年にISAZができたんですけど、日本はそこからしばらく遅れて、1995年に、人と動物の関係学会というのができています。それから、2008年に、日本動物介在教育・療法学会ができあがっているということで、少しずつ遅れている。

●犬を飼っている高齢者は、ストレスが多くても病院に行く回数が減る

こういった、学問の基盤になったやつを、ちょっと紹介しときます。私に言わせると、大変有名なのは、1990年のSiegelさん――アメリカの女性ですけども――が行なった、60歳の高齢者が、犬を飼ってる高齢者と、犬を飼ってない高齢者を比べたときに……。これは2つあるんですけど。ストレスの多い人、とストレスの少ない人。これは、夫婦が円満である、あるいは子どもにも不幸がないのが、低ストレスで。もう既にどちらかが亡くなってしまったとか、子どもに不幸があるとか、そういった人たちが、このストレスの多いほうなんですけど。これは犬を飼ってない人、こっちは犬を飼ってる人。

そのときに、犬を飼ってない人と飼ってる人の中で、このストレスを比べてみますと、ストレスの多い人は、1年間に――これは1年間です。1年間に10.37回、病院に行く。それに対して、犬を飼っていると8.62回。その差は1.75回です。1年間に1.75回。犬の飼い主が、ストレスが多くても、病院の回数が減ってくる。

これを医療費に変えたら、これなんです。ドイツでは7547億、オーストラリアでは3088億円の、医療費の節約になっているということで、これをパーセンテージに直すと、大体16から20%ぐらいだそうです。これぐらい、ある種、犬は人の健康に貢献してた。大体2000年の初めごろには、こういった意味で、人の体にストレスを和らげるような研究、動物を飼うのは大変健康にいいんだという話が、科学的に証明されたわけです。

動物の何がいいんですか。これは、15年間、それを研究してきました。そのうちの一つ。これは、私の研究ではありませんけども。これは、犬と散歩をする。そうすると、副交感神経活性が上がりますよというデータです。体の中に自律神経っていうのがあって、交感神経と副交感神経があるんですけど、交感神経はいろんな方法で活性を見ることができますけども、副交感神経の活性を見るためには、ここに書いてある、心拍変動という若干難しい方法しかないんです。心電図の一番高いところの間隔を、フーリエ変換という、まあ、そういう方法で変換して、そのときに、高い成分と低い成分を見る。高い成分は、先ほど言いましたように、副交感神経活性を、それで知ることができるというものであります。

これをやったのは、日本人のMotookaさんっていう、現在はどこにいらっしゃるか、彼が2006年に発表したもので、犬と散歩すると副交感神経活性が上がるんだと。ここです。大変健康にいいんだということで。

じゃあ、ちょっとだけ勉強するために。先ほど言いましたように、自律神経の中に、交感神経と副交感神経がある。こちらが交感神経です。こっちが副交感神経で。要するに、副交感神経活性が上がりますと、呼吸は穏やかになるし、血圧、血糖は下がってくるし、消化器、要するに食欲も増える。ホルモン分泌を安定させて、筋肉は弛緩してリラックスする。大変体にいいんです。特に、疲れたとか、ちょっと働き過ぎのときは、どうしても、この副交感神経が活性化しないと疲れが残ってしまう。非常に大事なものであります。これが、犬と散歩すると大変いいんだという話です。

これを、もうちょっと具体的に書いたのがこれで、いわゆるストレスが自律神経のバランスに影響するんだということで、当然、ストレスが掛かってくると、交感神経のほうが増えてきて、体のバランスを失ってきて、場合によっては病気になってしまいますよという話であります。こういった感じで、動物というのは、われわれの体に大変いい影響を及ぼしているというのが、ほぼ科学的に証明されてきました。

●犬とのアイコンタクトでオキシトシン濃度があがる

ただ、こういう研究というのは、ほとんど犬なんです。その犬が減っていることを、私は大変心配しているのを、きょう言いたいがために、このスライドを出しました。

われわれもオキシトシンという――これは別の機会に話をしたことがありますけども――を中心にした研究のデータを積み上げてきました。オキシトシンというのは、ちょっと書いたんですけど、もともとはこういう、脳の中に視床下部という場所があって、ここから合成されて、下垂体の後葉から分泌される、そういったペプチドのホルモンです。9個のアミノ酸から成ります。生理的には、分娩時の子宮収縮とか、お乳を出す、そういったことから……。もう一つありますけど。ちょっと書きましたけども。オキシトシンというのは、母子の関係にも重要なことから、ハッピーホルモンと言われています。このホルモンが、実は人と動物の関係に大変重要であるってことを、われわれは2009年に論文を出しました。

その結果がこれなんですけども。55組の犬とその飼い主の実験で、室内で1組30分間触れ合ってもらった。その前後の飼い主の尿に含まれるオキシトシンの濃度を測ったんですね。そうすると、事前のアンケートで犬との関係が良好と判断されたのは、わずかに13人しかいなかったんです、55組のうち。この人たちは、実験後にオキシトシンの濃度が大きく上昇いたしました。残りの42組ですよね。関係が良好でなかった人たちは、オキシトシンの変化がなかったということで。そのときに、オキシトシンの上昇っていうのは、犬が飼い主を見つめる時間に比例するっていう、そういうデータが出たんです。

で、ちょっと試しにやってみようっていうのがこれで。良好と答えなかった飼い主42人のうち、12組を無作為に選んで、犬が飼い主さんを見るようなトレーニングをしたんです。1カ月間、毎日10回、犬とのアイコンタクトを行なうということをやっていただいて。そうしたら、12組のうち8組で、オキシトシンが上がるようになったということで、これは、ひょっとしたら正しいんじゃないかといって、またさらに実験をしたんです。

それは、Mitsui君というのがやってきました。こういう具合に、犬が人を見ると、人はオキシトシンが上がります。当然、そのときに脳の中でドーパミンが上がっていることも、実は分かっています。そのあと当然、上がれば、人が犬に対して、こういった接触行動、いわゆる養育行動というんですけども、起こす。そのときに、同時に犬側のオキシトシンも上がるということを、このMitsui君が、まあ言うならば、見つけてくれたんですね。これも、2011年に論文を出しました。

●「猫のぬいぐるみ」で増える脳の血流

ただ、先ほど言ったように、犬が人を見るっていうのが、要するに引き金になっているかということに関しては、現在、われわれはさまざまな実験をしていますけども、実は30分間の触れ合いの中に、犬に対して5分に1回、座れという命令を与えています。要するに30分は暇ですから、そのままにしとくと何も起きないので、犬に対して座れという命令を与える。

最近分かってきたことの一つは、どうも、犬が見つけることも非常に大事だけども、犬が座れという命令に対してちゃんと座ってくれるということが、大事なようではないか。そっちのほうが大事ではないかということで、その研究を今現在やっております。

いずれにしても、犬を飼うと、ほとんどの人は、犬に対して座れとか伏せとかいう――コマンドというんですけど――ものを与えると思うんですけど、それに忠実に従ってくれることが、実は非常に大事だということであります。それを、実際、脳の血流で分かる方法でやります。これは後ほど示します。

その前に、猫のほうは数がだんだん増えてきているので、要するに減っていないんです。だから、いずれの機会にか、犬の数を猫が追い越すだろう。じゃあ、猫もまじめにやろうっていうことで始めたのが、この脳の血流を見るやつで、これは一つだけデータを出します。

こういった脳の血流を測る機械で、これは測りました。これは300万ぐらいの機械なんですけども。これは、うちの研究室にいる大変かわいらしい猫です。これを触って、5つのパターンでやってみました。これは、映像の猫、本物の猫、人形の猫に触る。それから、本物の猫に触る。短毛と長毛があるので、この5つのパターンで、脳の血流を見てやった。本当は詳しく話さなくちゃいけないんですけど、これはまとめたやつです。

さすがに映像を見ても、大して……。この赤くなったほうが、脳の血流が増えたっていう意味なんですけど、見ても大したことないんですけど、本物を見るとそこそこ上がってきます。人形に触っても、結構いい線までいくんですね。この人形というのは今日はお見せしませんけども、2万円もした高いつくりものです。大変効果がある。で、当然、本物の猫であれば、短毛であれ長毛であれ、脳の血流は増えてきます。要するに、大抵、猫を飼ってると、いい子だいい子だってなでると思うんですけど、これが、実は人の健康にいい影響を及ぼしているのではないかということで、今現在も、これは継続してやっています。

●犬が「座れ」を成功すると

先ほど言いました、犬に対して座れ……。ちょっとこれは生のデータなので、ここに「Sit」って書いてあるのは座れということで、これを10回やったんです。これは、人の名前が都さんで、犬の名前がヤワラさん。スタンダードプードルです。そのときに、1回目は、座れと言っても座らなかった。2回目、座った。3回目、座った。4回目も座って、5回目は座らなくて、6回目をやって座らない。自分の犬でぜひやって……。まあ、自分とこの犬は、言えば必ず座るよと言っても、このようなペースでやってほしいです。そうすると、座らないときがあります。

それの脳の血流を測ったのが、これなんです。ちょっと見づらいですけど、目を凝らして見ていただきたい。要するに、1回目は座らなかったので、上がっていません。ところが、2回目に座ってくれたので、こう上がってきます。これは、チャンネルが16チャンネルあって、その一部を示したんですけど。こういう感じで、犬が座れというコマンドに対して座ってくれると、脳の血流に変化が出る。

ただ、先ほど「Sit」の表の中で連続3回座っていましたけど。ここからなんですけど。これは2回。ちょっとひきのばしてみます。これですよね。1回目は座らなくて、2、3、4と3回連続して座ったんですけど。そうすると、2回目は上がって、3回目も上がっていますけど、4回目は座ったんですが上がってこないんです。要するに、同じことを続けてやってくると、やっぱりずっと上がり続けるわけではない。通常、「座れ」以外に、先ほど言いましたように、「待て」とか「伏せ」とか、さまざまなコマンドを犬に与えるので、そういったことを入れていけば、おそらく脳の変化を起こすだろうというふうに考えています。いずれにしても、現在やっているデータです。

このように、われわれ人の体に非常にいい影響を与えてくれる、犬や猫なんですけど、これが、先ほど言いましたように減ってきている。これを、減らないように、ぜひ力を尽くしていただきたいと思って、きょうはお話をさせていただきました。

これが、日本の医療費なんですね。2007年の段階で、厚生労働省が出したデータです。33兆4000億円。現在は、多分40兆円を超えていると思います。これは当然、今現在、65歳以上の高齢者が全人口の25%を占めていまるので、この割合が減る可能性は当分ない。その中で、ある一定の割合で、認知症とかさまざまな病気を起こしますので、ますます医療費は増えていく。そのときに、現在の日本の状態というのは、犬の数が若干減りつつあって、初めのほうに申しましたように、このまま減ってしまうと半減するというような、危機的な状態になります。そうすると、人の健康に対してもボディブローのように利いてきます。そのことを知った上で、いろんな活動に皆さんに参加していただきたいと思って、きょう紹介しました。

大変早口で話をしましたが、これで私の話は終わりです。ご清聴ありがとうございました。

 

 

◆  プログラム2 ◆

講 師:ペンシルベニア大学獣医学部 ジェームス・サーペル教授

テーマ:「C-barq(犬の行動解析システム)で何がわかるか ~幼齢犬との向き合い方~」

ジェームス・サーペル教授:皆さま、こんにちは。本日は、このような形でお招きいただきまして、こうしてお話しできることを、大変うれしく思っております。本日は、私が長年手掛けてまいりました、犬の行動、また、犬の行動の発達についてのリサーチ、研究結果をご紹介したいと思います。そもそもこの犬の行動を研究する理由としては、実はいろいろあるんですね。

●問題行動に対処するために

犬の行動を研究する理由なんですけど、いろいろあるというふうに申し上げました。その中でも一番大切な理由というのは、公衆衛生の観点からなんです。アメリカでは、犬に噛まれたことによって、10万件以上の治療が毎年必要とされておりまして、国によってはもっと大きな数の治療が必要になっています。

2番目の理由といたしまして、動物愛護という問題があります。アメリカの犬で成犬になる前に死んでしまう、その理由の1番目となっているのが、実はこの問題行動なんです。なぜ犬が虐待されるのか、捨てられてしまうのか、あるいは暴力犬となってしまうのか、あるいは施設送りになって処分されてしまうのかという、その根底にある1番の理由が、問題行動だということです。

3番目の理由としては、この公共サービスというものがあります。これは、使役犬に関することなんですけれども。今日、使役犬といいますと、従来の盲導犬ですとか介助犬に加えまして、爆発物や麻薬を探知する、そういった探知犬の活躍もあります。そういった使役犬がうまく訓練できない、しつけできない理由として挙げられているのが、この問題行動となっているんです。

4番目としましては、人とのつながりです。やはり、この問題行動があるがために、飼い主と犬の関係が壊れてしまう、うまくいかなくなってしまうということがあるわけです。ですので、こういった問題に正しく対処して、その絆を回復することができればという、背景もあります。

●限られている問題行動に関する知識

こういった状況にもかかわらず、犬の問題行動、これに関する知識というのは、驚くほどに限られたものしかありません。例えば、この問題行動が犬全体でどのくらい広がっているのか、あるいは、特定の犬種の中でも、どのくらいこの問題行動というのが広がっているものなのか。そういったことに関する情報は、ほとんどありません。

また、この問題行動がある犬種では見られるのに、ほかの犬種では見られない。これは、どういった理由によるものか。これについても、ほとんど理解が進んでいません。

品種に特有な、あるいは遺伝的な要因による気質に関しての、信頼のおける科学的な根拠のあるデータというのも、ほとんどありません。この点に関しては、世界的にもいろいろ議論となっておりまして。例えばある市町村では、特定の品種が、あまりにもこういった種類の犬というのは危険だから、禁止すべきだという議論もあるんですけれども。実はそういった科学的な根拠のあるデータ、情報というものが、ほとんどないというのが現状です。

それから、最後が子犬。幼齢のときというのは、その影響というのは、発達に非常に重要な影響をもたらすわけです。つまり、子犬が母犬から離されるタイミングですね。これについては、非常に大きな影響があると言われているんですけれども、やはりその根拠になるものも、非常に古いものであったり、信頼性の低いものであったりして、はっきりとした根拠がない問題もあります。

こういった犬の問題行動に関して科学的なデータがないと、申し上げましたけれども、この理由も、もっともな理由があるわけなんです。特にいわゆるペット犬ですね、これにはいろいろ課題がありまして。多くが、当然、家で飼われておりますので、例えば野生動物のように観察するというのは、実質的に非常に難しいです。

もう一つ、犬の問題行動を研究する上で難しい課題といいますのが、現在、標準化された、汎用的な、広く受け入れられているような、行動の測定方法というものがないわけなんです。こういった犬の問題行動を正しく分類したり、捉えるような、共通言語というものがないというのが、一つありますし。あとは、どうやって測定するのか、測定方法はどうするのかといったことに関する、意見の一致も見られていません。また、ほとんどの既存のそういった測定方法に関しては、まだ信頼性ですとか有効性に疑問があります。未知の分野であるということと、あとは、これに関しては、実質、各人が専門家ということで、少なくとも自分たちは専門家だと言っている事情があるので、お互いの交流もない。こういった問題があります。

●犬の行動を測定するためのツールを開発

ということで、私どもがこういった研究をするときの目標といたしましては、まずは、こういった犬の問題行動を測定するための、実用的な、かつ汎用性があるような、測定ツールを開発しようと思ったわけなんです。そして、そういったツールは、当然信頼性があり、有効性がなくてはいけません。それで、こういったツールを使うことによって、犬の行動、そういった違いを説明するための、主な遺伝的な要素、あるいは環境的な要素というものを、特定するために測りたかったわけです。

さらには、こういった測定ツールというものは、すべての人に使ってほしいと思いました。つまり、獣医であったり、動物行動学者であったり、あるいは動物の収容施設、あるいは使役犬を育成しているような機関、科学者、そういったすべての人に使ってもらえるようなツールを開発したいというのが、当研究の目標でした。

それでは、犬の行動をどのように測定していくかということなんですけれども。従来的に、例えばもし犬が野生の犬、つまり、野生の犬というのはオオカミですね。オオカミのように野生の動物であれば、ある1つの個体を選んで、それを何時間かかけてずっと観察する。そして、その1つの個体に関して、あらゆるものを記録するという形で、こういった形の動物の観察というのが、いわば黄金律のような形で、従来的に行われてきたわけであります。

ただ、先ほども申し上げましたけれども、これは、実際問題として非常に難しいです。ペット犬はほとんど家に飼われているわけでありますので、やはりその飼い主さんとしても、科学者に家に入り込まれて、自分の犬を何時間にもわたって観察されるというのは、良しとしないということがあるので、実際問題上、これは難しいわけです。

もちろん観察するわけですので、たとえ1個体、1頭の犬といえども、すべてを記録するということになりますと、当然、時間がかかります。何百頭、何千頭というのは言うに及ばずですけれども、非常に時間のかかるプロセスであるということもあります。

それから、私のほうで、つまり、研究者のほうで関心がある行動というのが、実際にそれが起こる頻度というのも、まれということになります。例えば、ある犬の攻撃性を見たい。ある犬が、例えば成人の男性に対して非常に攻撃的になるという、それを観察しようと思っても、実際、成人男性と出くわすのが1日に1回ということになりますと、やはり、これは理想的なリサーチ方法とは言えないと思います。

そのほか、科学者やこういった関係団体がよく使う測定方法としては、いわゆる犬の行動テストというものがあります。犬をいろいろな環境下に置いて、そのときの反応を見て記録するというものですね。

ただ、この種の行動テストの問題としては、ここはかなり動物自身の動機によるところが大きいということです。つまり、非常に疲れた状態にいるのかとか、おなかをすかせているのかといった状態などによって、テスト結果が違ってきてしまします。例えばアクティブ(行動的)かどうかを見るときに、満腹の状態であるといったような状況によって、またテストの結果というのは違ってきますので、そのような問題もございます。

●日々、犬と接している人たちから情報を取る

3番目の方法は、直接情報を得るのではなくて、実際に犬と日々接している人たちから情報を取ろうというものです。つまり、犬たちと日々暮らしている。あるいは一緒に仕事をしている、触れているという、24時間触れているようなところに質問票を送りまして、その質問票に答えていただく形で、必要な情報を入手するというものです。

ただ、当然、こういったデータですと、信頼性とか主観の問題は出てくるかと思います。どうしても、質問票を送った回答者のフィルターを通して、ものを見ることになりますので。

ただ、この方法の大きなメリットとしては、何といっても、多量の情報を入手できるということなんです。たくさんの人から得た情報を、大変たくさん手に入れることができる。これは、先ほどの2つの方法では、実際難しいです。

ということで、先ほど申し上げた研究をしようということにあたっては、この方法でアプローチをすることにいたしました。まずは質問票をつくり、それを、犬と接している人たちに送って、そこから情報を取り寄せようということです。

このアプローチなんですけれども、2つの大きな設定があります。前提のその1というのは、犬と日々接している人ほど、彼らの、つまり、犬の行動をよく知ってる人はいない。つまり、彼らが一番よく知っているのだという前提があります。

そして、質問を投げ掛けることによって、われわれに必要な知識を、犬の飼い主から得るということです。有効で定量的な、また信頼のおける情報を得ることができるという、前提に立っています。

●解析システム「C-barq」と約5万頭のデータ

いずれにしても、こういった形で質問票をつくることにしました。実は何年もこの質問票の完成にはかかってしまったんですけれども、その結果、行き着いたこのツールというのは、C-barq といいます。C-barq というのは、英語で言うと Canine Behavioral Assessment and Research Questionnaire 。犬の行動評価および研究に関する質問票ということなので、犬の行動を解析しようというシステムを指します。

この C-barq でありますけれども、犬の飼い主さん、あるいは取り扱っている人のほうで、犬の反応のレーティング、評価づけをしてもらうわけです。日々のいろんな刺激とか状況を踏まえた、犬の反応するものを、0から4までの5段階でポイントづけをしてもらいます。100ほど質問があるんですけれども、ここの中で、特に14のいわゆる行動の特徴というもの、その他の行動としては22項目あります。

もちろん、こういったツールを開発したからには、当然有効でなくてはいけませんし、これが信頼のおけるデータが得られるものでなくてはいけません。そのために、われわれもいろいろ研究を行ないました。その有効性というのは、つまり、出てきたデータが正確でなければいけないということ。そして、信頼性というのは、出てきた結果が一貫したものなくてはいけないということです。例えば、2人の人がやっても結果は同じであるとか、あるいは、1人の人が2地点でやっても同じような結果が出るとか、そういった信頼性のあるデータが出せるものだということを、確認しなくてはいけませんでした。

この C-barq というシステムは、オンライン上で2006年から公開されています。オープンのシステムでありますので、どなたでも、犬に関してちょっとしてみたいというときは、使うことができるわけなんですが、その際には、犬の住環境ですとか、これまでの経過など、簡単な情報を入力していただく必要がありますけれども、それを元に評価していただくことができます。こういう形でかなりのデータが集まっておりまして、ペット犬では、2万頭なり3万頭のペット犬の情報があります。また、この使役犬ですね、主に盲導犬になるんですけども、2万2000頭から2万5000頭ほどの犬の情報が、データベースとして蓄積できています。

●14の問題行動を分析する

先ほど申し上げましたように、このツールでは、14のサブスケールということで、尺度を用意しております。例えば一番左上にあるのは、見知らぬ人に対する攻撃行動ということで、文字どおりご理解いただけるかと思いますが、犬が見知らぬ人にどんなふうに反応するかということですね。どういうふうに反応していくか、どのくらい攻撃的になるかということを、尋ねている項目になります。

この各項目の後ろに括弧が付いていまして、一番上だと、例えば10アイテムというふうになるんですけれども。これは、見知らぬ人に対する攻撃行動に対して、10の質問項目があることを示しています。つまり、回答者は10の質問に答えていただきまして、そのスコアをわれわれが集計して10で割りますと、見知らぬ人に対する攻撃行動という尺度の平均スコアが出ます。

ざっと見ていきますと、その下にありますのが――上から2番目ですね――飼い主に対する攻撃行動。これは文字どおりです。飼い主を含んだ家の人に対しての、攻撃行動です。その次が、ご家族の見知らぬ人に対する攻撃行動。そして、次が、なわばり的な攻撃行動です。つまり、見知った顔でも、例えば同じ家の中にいる犬に対して、なわばり的な攻撃をするということ。

次の水色の四角ですけども、ここは、恐怖とか恐怖症に関連する行動でありまして、上から、見知らぬ人に対する恐怖、それから、ほかの犬を怖がるということ。3番目の非社会的な恐怖というのは、例えばカミナリが落ちたときに怖がるですとか、あるいは、道を歩いていたら見慣れないものがあって、それに対する恐怖心。それから、次が、飼い主の愛情を得たいとか、注意を引きたいとかいう行動。それから最後が、ひとりぼっちにされてしまったときに非常に不安になる。分離不安と言われるものなんですが、そういった、ひとりぼっちにされたときに、非常に不安になっていますというような行動を指しています。

次が、犬は触れることで興奮するということについての項目。それから、2番目が、興奮しやすさです。つまり、常に興奮をするという、そういった状況。3番目が、エネルギーレベルということで、犬によっては、他の犬に比べて非常にエネルギッシュな犬などもいます。それから、次は、ものを追い掛けるということで、これは捕獲本能に関連して、猫ですとかリスですとか小鳥とか、そういった動物を追い掛けるという行動。それから最後は、訓練、しつけのしやすさであります。

前のスライドで示したのが、14の主な尺度ということなんですけれども、そのほか22の、その他の質問項目があります。これは、それぞれ1つずつ質問になっているんですけれども。例えば排尿とか排便行動ですね。つまり、ひとりぼっちで置き去りにされたときに、粗相をしてしまうというのが、非常に重要な問題でありまして、施設に収容されたり、あるいは、路上でも非常に失敗な、問題のある行動を取ることで、こういった項目も質問事項に入れることにしました。

ちょっとここは飛ばします。

●飼い主による評価でC-barqは信頼できるツールに

これが質問票でありまして、セクション1は、訓練と従順さということになっているんですけれども、5段階の評価をしていただくというものでありまして、そのセクション1の下に簡単な説明文が記載されております。犬によっては、ほかの犬よりもより従順な、あるいはしつけのしやすい犬がいます。ということで、あなたの犬に関して、ここ最近の行動を踏まえて、8つの質問にお答えくださいということになっていまして。一番左の NEVER、決してそんなことはないというところから、たまにとか、時々とか、そして常にというふうに、5段階で選んでいただくようになっています。ちなみに、これは当てはまらないとか、こういう行動は見られないというものになったんですけれども、こういった8つの質問について、それぞれレーティングをしていただくということになります。

先ほどの従順というところでは、頻度は「全くない」から「いつもある」というふうに分けていただいたんですけれども、こちらのセクション2は、攻撃行動に対する質問になりますので、その攻撃行動の程度がどのくらい深刻かというのを、尋ねる形式になっております。一番左ですと No aggression というように、全くそういった攻撃行動は見られないというのが、一番左でありまして、右は、非常に重大な攻撃行動。大変深刻な、例えばかみつくとか、襲いかかるとか、ものに飛びかかるとか、そういったものが右になっています。

このような形でまとめますと、C-barqというのは非常に有効で、かつ信頼ができるツールと言えるわけです。これによって犬の行動を測り、そして、問題行動を測ることができるということで、これは、今後の犬の行動という分野における、新しいほかのリサーチですとか、ほかの応用分野にも、非常に多くの機会を提供するものと考えています。

このC-barqというツールを使って、実際に研究をしてまいりましたので、その研究成果をいくつかご紹介したいと思うんですが。まず最初は、犬の品種による気性の違いです。

●小さな犬種ほど攻撃行動性癖が出やすい

こちらですけれども、サンプル数としては、最もポピュラーな品種の犬を30ほど選びました。これは、アメリカン・ケンネル・クラブに登録されている犬種を、30ほど選んだんですけれども、雌犬と雄犬の比率は、ほぼ同じ、半々です。

この犬種のうち2つの犬種、具体的にはダックスフンドとプードルなんですけれども。こちらは、さらに大きさ別に分けています。ダックスフンドは、通常のサイズのものとミニチュアダックスフンドに分けましたし、プードルも、スタンダード、ミニチュア、そしてトイプードルというふうに分けました。なぜこういうふうに分けたかということは、このあと、ご説明したいと思います。

母集団としては、かなりの頭数を集めることができました。一番頭数が少なかったのはブルドッグで、49頭だったんですけれども、ジャーマン・シェパード・ドッグは781頭集まりました。

こちらは、先ほどの C-barq の尺度の一つということで、見知らぬ人に対する攻撃行動というものが出たんですけれども、大変興味深い結果が出ております。

一番攻撃的だったのがダックスフンドでありまして、次がミニチュアのダックスフンド。チワワがそれに続いています。あと、マルチーズですとかテリアですね。ミニチュアシュナウザーといったところもあるんですけれども。最後にプードルを見ていただきますと、トイプードルのほうが、ミニチュアプードルですとか普通のプードルに比べて、より攻撃的であるということが分かりました。

これで分かりましたのは、最も攻撃行動性癖が強い犬というのは、非常に小さな犬なんですね。つまり小型犬。一方、この中で攻撃行動が一番小さかったのは、シベリアン・ハスキー。右から2番目ですけれども。これは、皆さんご存じのように、大型犬です。

●最も恐怖心を示したのはミニチュアダックスフント

こちらは恐怖心ということで、見知らぬ人に対する恐怖を示しています。ここでも似たような犬種が上がってきておりまして、一番恐怖心を示すのが、ミニチュアダックスフンドで、次いでチワワ。そして、通常のダックスフンドになっています。あと、マルチーズですとか、ヨークシャテリアですとか、そういったものも恐怖心を示す犬種になっています。また、トイプードルは、やはり普通のプードルに比べると恐怖心が強いということ。そして、シェットランドシープドッグ。これは、ミニチュアプードルのような犬種ですけれども、ここも非常に恐怖心が強いという結果が出ました。

ちなみに、あの赤い線は、すべての犬種の平均値を示しています。

ご覧いただけますように、やはり大型犬というのは、この恐怖心という意味では、平均値よりも下にいます。シベリアン・ハスキーですとか、ロットワイラー、あるいはラブラドール・レトリーバー、ゴールデン・レトリバーといった大型犬は、いずれも下回っています。

こちらを見ていただきますと、見知らぬ人に対する攻撃行動と、見知らぬ人に対する恐怖心、これというのは、相関関係がきれいに直接的に出ております。右の上にはミニダックスフンドとかダックスフンド、左下にはシベリアン・ハスキーというふうにありますので、この2つは強い相関関係があるということが、はっきりとここから分かります。

こちらは体の大きさです。体の大きさと恐怖心というのは、実は逆相関にありまして、体の小さな小型犬のほうが、大型犬に比べると、この恐怖心というものは強く出ております。

今ご紹介しているグラフは、見知らぬ人に対する恐怖心なんですけれども、これは、見知らぬ人に対する攻撃でも同じような結果になります。これは、ある意味もっとなことで、やはり小型犬というのは、誰にでも何にでも怖がってしまうということで、どうしてもこういった傾向が出るということがわかります。

こちらは訓練のしやすさなんですけれども。こちらはほかのスコアと違って、数字が大きければ大きいほどいいということになります。訓練がしやすいということなので。ほかのものは、数字が大きいとよくないんですけれども、こちらは数字が大きいといいということになります。

●訓練がしやすい使役犬、言うことをきかないビーグル

こちらを見ていただきますと、訓練のしやすさでいいスコアを上げている犬というのは、人間のために複雑な仕事をしてくれる犬たちになります。例えば一番左のオーストラリアン・シェパードというのは、シープドック、牧羊犬ですし、あとはおなじみのドーベルマンもいますし、あるいはイングリッシュ・スプリンガー・スパニエル。これは狩猟犬ですよね。あと、ジャーマン・シェパード。それから、やはり狩猟犬のゴールデン・レトリバー。さらには、ロットワイラーとかシェットランドシープドッグとか、いずれも牧羊犬。こういった形で、人のために、人に代わって羊の見張りをするというような複雑な仕事ができるような犬たちというのが、訓練がしやすいということで、上位に上がっています。

この中で、一番訓練のしやすさが低い、つまりしにくいというのが、左から2番目のビーグル犬になっています。ビーグル犬を飼っていらっしゃる方はご存じと思うんですけれども、人の言うことは聞きません。もともと嗅覚に優れている犬ということで、ものを嗅ぎ分けるんですけれども、人間の指示を無視してしまうということで、人の言うことは聞かないということで、訓練のしやすさとしては一番低くなっています。

いわゆる愛玩犬とされている、ダックスフンドとかヨークシャテリアというのは、もともとそういった仕事をするための使役の犬ではないので、コンパニオンアニマルとしての役割が強いですから、やはり訓練しやすさという意味では、高いスコアではありません。

こちらは、ものを追いかける特性などを見ているものです。

こちらは、やはりスコアの一番高いのが、中ほどにあります、ジャーマン・ショートヘアード・ポインターです。これは狩猟犬ということで、当然ものを捕まえるのが仕事ですので、高くなっています。それから、ミニチュア・シュナウザー。これは、ネズミを捕るということで使われることが多いですね。それから、シベリアン・ハスキー。右から2番目。これも、狩猟でも使えますけれども、犬ぞりにも使われる犬であります。

ということで、もちろん品種間の違いはあるんですけれども、実は同じ品種でも個体ごとの違いというのも大きく出ていまして、実はその個体同士の差のほうが、品種間の差より大きいということもございます。

●犬種間の差より個体同士の差のほうが大きい

ということで、じゃあ、その個体ごとのそれだけの大きな違いというのは、一体どこがあるのか。

ここでは、考えられる個体間の違いについて、どういった原因があるかということを示しております。もちろん品種は同じでも、犬は個体ごとに、当然その遺伝的な性質というのは1頭ごとに違いますので、一つは遺伝的な特徴というのが挙げられると思います。

今申し上げた、遺伝的特徴というのが、一番上ですけども、そこから時計回りにいきます。その次の右にあるのが出生前の影響を言っているんですけれども、これはどういうことかといいますと、例えば妊娠中に母犬がストレスにさらされたときに、そのストレスを通じて、子犬の遺伝子発現、DNAの遺伝子の発言に影響を与えるということで、そういったものも一つ考えられる要因です。

それから、やはりこれは出生前の話なんですけれども。子犬が生まれる前、つまり妊娠しているときに、母犬の母性ホルモン、こういったホルモンが胎盤を通じて子犬に、つまり胎児に行くということで、これも出生前、出産前の、一つは考えられる影響です。

それから、今度は生まれた直後ですね。新生児のときの環境です。つまり、同じ母親から生まれたほかの子犬たちが、何匹ぐらいいるかですとか、あるいはどのくらいケアをしてもらっているか。そういった生まれたてのときの環境というものも、影響が誠に出てきます。

ただ、今申し上げたこの3つのいろんな影響に関しては、残念ながら、犬に関してはほとんど、あるいは全く、それを裏付けるようなエビデンス(科学的証拠)というものがありません。

●エビデンスが示す幼犬のときのトラウマ

ただ、そのほかの要素に関しては、犬の行動に影響があるということではエビデンスがあります。例えば早い時期の社会化という要素。それから、幼いころに、つまり幼犬のときにトラウマを抱えてしまうと、それが長きにわたって、成犬になったあとインパクトがあるですとか。あるいはもっと発育が進んで、訓練、これも行動にインパクトを与えるということが分かっています。

事例をご紹介します。

こちらは、まず、比べているのは2つの品種です。グレイハウンドとアメリカン・エスキモー・ドッグを比べているんですけれども。このグラフの見方として、まず横軸(X軸)なんですけれども、先ほどご紹介したC-barq、0から4の5段階と申し上げましたが、それを0.5刻みに、0から0.49というふうに、0.5刻みで取っています。

それぞれの、このC-barqのスコアに入る犬が、何頭かというのを数えました。例えばC-barqのスコアで、0から0.49に入るのは何頭で、0.5から0.99に入るのは何頭というふうに数えまして、それを全体の頭数で割りますとパーセンテージが出ますので、パーセントで示しております。

これは、見知らぬ人に対する攻撃行動を見た調査結果ですので、グレイハウンドを見ていただきますと、90%が0から0.49のスコアに入っているということは、ほとんどまず、人に対する攻撃行動を示すようなグレイハウンドはいない、見当たらないということになります。

一方エスキモー・ドッグのほうなんですけれども、このスコアが一番低いところに入っているのは、わずか20%にとどまっております。そのほか、このようにばらけているんですけれども、ご覧いただくように、非常に高いスケールの個体もいたということで、右端になりますと、こういった犬は、まず、見知らぬ人を見ると、かみつくとかかみつこうとするという、大変攻撃行動が強いということになります。

もちろん、犬の各個体の、早期の、幼いころの環境が影響したという議論も、成立しなくはないんですけれども、やはりこれだけ差があるということは、かなりの犬に関して、この場合には遺伝的な要素が非常に大きく影響しているということが言えると考えます。

グレイハウンドというのは、この犬種というのは、もともとウサギ狩りのための犬でありますので、そういった縄張り意識とかが、もともとあまり強くない犬種であります。一方エスキモー・ドッグというのは、非常に縄張り意識が強い。非常に強烈な意識を持っていますので、知らない人に対しても大変攻撃的だということを示しています。

●特定の犬種を攻撃的だからと「禁止」するのは疑問

こちらは、やはり遺伝的な要素を見ようとしているんですけれども、今度は他の犬に対する攻撃行動を見ております。ここでは日本の品種、秋田犬ということで、非常に攻撃性が強いことで知られています、他の犬に対して。それとキャバリア・キングチャールズ・スパニエルを比べているんですけれども、こちらは最も攻撃性が低いという品種でありますけど、この場合は、キャバリアスパニエルのほうも、かなり上のスコアのほうにも何頭かいたということが分かっているので、先ほどの、見知らぬ人に対する攻撃行動とは、ちょっと違っております。犬に対してどのぐらい攻撃的かを見るよりは、人間に対してどのぐらい攻撃的かを見るという傾向があるために、こういった違いがあるのかもしれません。

ただ、私としては、ある特定の品種に対して、これを禁止すべきだということには、疑問を持っています。というのは、非常に攻撃性が強いものであるとしても、このようなデータが示すように、いくつかは、それほど示さないといったようなこともあり、攻撃性が低いものであっても示すものもある。ということで、その特定の品種にということで禁止するのは、私としては、いかがかと思っています。

次に、C-barqを使って早期の影響ですね。つまり、生まれてすぐの環境がどういうふうに、犬の行動とか気質に影響するかということを見極めようということで、今ご覧いただいたのは、大変複雑なチャートになっているんですけれども、この出典は、まず、スコット&フューラーという教師による研究でありまして、1965年に出されております。これは、遺伝と犬の社会行動に関する論文であったわけなんですが、10年がかりのリサーチということで、特に遺伝的な要素が、犬の行動の発達に大きな影響を及ぼすということを論じた、著作になっているんですけれども。特に早い時期に大きな影響があるということを述べています。

●成犬の行動は幼犬の時の経験に大きな影響を受ける

週齢とはその見方なんですけれども。まず、この1から20まである数字は、犬の週齢を示しております。つまり、1が生まれたばかりということで、2週齢になりますと、目が開きます。3週齢になりますと、耳が聞こえるようになりますので、大体の音に反応するようになります。そして8週齢になりますと、非常に周りの環境に反応度が一番高くなる時期であります。それが節目ということになります。

それから、16週齢になりますと、脳の体積はほぼ成犬並みになります。120立方センチとありますけれども、そのようになります。脳体積のほうなんですけれども、生まれたては、まだ10立方センチしかありませんので、これが16週齢で120立方センチになる。特に最初の8週齢で10立方センチから80立方センチになるということで、非常に急速に脳の体積は大きくなります。

このように脳体積が大きくなると言いましたけれども、実はこれは、脳細胞の数自体が増えるということではありません。細胞の数自体は、1週齢も16週齢も変わらないんですけれども。じゃあ、何が大きくなるかといいますと、脳細胞の間のつながりが大きくなる。つまり、細胞と細胞をつなげているこのシナプス、その細胞のつながりのほうが大きくなることによって、どんどん体積が大きくなるわけです。ここで分かっているのは、成犬時の行動というのは、幼少時の経験に非常に大きな影響を受けるということです。つまり、生まれて間もない早い時期に、どういった種類の環境にさらされていたか。どういったレベルの環境にさらされていたかによって、成犬になってからの行動というのが大きく変わってくるということになります。

スコット、フューラーの両氏は、犬の発達をこのように3つの時期に分けました。新生児期、それから社会化期、それから若年期というふうに、下から3つの時期に分けたんですけれども。その新生児期、生まれて間もなくの時期というのは、においをかぐことはできますけども、目は見えませんし、耳も聞こえることはできませんので、それの反応には鈍感でありますけれども、そこから社会化期になりますと、非常に反応が強くなります。両氏によると、この社会化期というのが、子犬の発達で最も重要な時期とされています。

これは、スコット、フューラー両氏の著書から、そのまま引用してきたものなんですけれども、実験結果を示しております。つまり、生まれたての子犬を見知らぬ人のもとに置き、どのような反応を示すかを見ました。

こちらの実験は、2週齢から9週齢までを見たわけなんですけれども。3週齢になりますと、つまり、そのときにはもう目は開いているんですけれども、3週齢を迎えた子犬というのは、見知らぬ人にしきりに近づきたがるようになるということで、3週齢から、このグラフですと5週齢まで、その時期というのは、非常に社会的なものに関心を示す時期であります。相手が人であれ、あるいは他の犬であれ、そういったものに対して大変関心を持つ、注意を払う時期というのが、この3から5週齢というふうになっています。

この赤い線のほうをご覧いただきたいんですけれども。3週齢から5週齢のほうというのは、この時期というのは、全く子犬は恐れというものを知りません。非常に大胆なので、恐れというのがないんですけれども、5週齢を迎えたころから、避けるということを覚えるようになりまして、例えば知らない人は避けるという、そういった行動が見られるようになっています。

この赤いところですね。Avoiding、つまり、避けるという傾向がどんどん強くなっていきます。一方、注意を払うこの線は、どんどん下がっていきます。そうしますと、この2つの直線は、いずれこの地点で交差するということになります。ここで、フューラー、スコット氏がたどり着いた結論としては、子犬を今までの環境から離して、新しい飼い主のもとにお渡しするタイミングは、一番いいのが、この交差している地点の前後1週間。1週齢ごとですね。ですから、この交わっている点を挟んで1週間、あるいは1週間前というところが、社会化に最も最適な時期であるというふうに結論づけました。

この1枚前のグラフの、さっきの交わっていた点というのは、ちょうど週齢で言うと、7週齢目ぐらいでした。ということで、7週齢目を挟んで前後1週間。つまり、6週齢から8週齢目が、一番この社会化には最適な時期ということで、その引用をここにそのままご紹介しております。つまり、子犬とその主人の社会的な関係を結ぶ理想的なタイミングというのは、週齢で6週齢から8週齢。で、この時期というのが、子犬を母親からどけて、この人が飼い始める、最も最適な時期というふうに言っています。もうちょっと下にも、別の引用があります。遅くとも12週齢よりも前が良いと。

これが、そういった関係者、一部の業者を除いて、これが正しい認識というふうになりましたけれども、これが時として不幸な結果にもなります。

●ペットショップの犬の方が問題行動を起こしやすいというエビデンス

ここでは、子犬の入手先に着目して、比較しようと思ったわけであります。具体的にはペットショップと、営利目的でないブリーダーと比較した場合に、その子犬の比較をしたわけなんですけど。ペットストアというのは、いわゆるパピーミルと言われるような、営利目的のブリーダーさんから子犬を仕入れて、扱っています。その比較をしました。

これもC-barqを使っておりますので、犬の飼い主さんのほうに質問を投げ掛けて、答えをもらっています。飼い主さんに、犬の行動に加えて、この入手先の情報を、何週齢のときに買ったのか、どこで買ったのかを聞いています。

もともと米国内でも、こういったペットショップの犬のほうが、こういった問題行動を示しやすいというような話はあったんですが、これまで、そういったはっきりそれを裏付けるような証拠というものは、なかったわけなんです。ただ、言えることは、ペットショップに飼われている犬というのは、どうしても商業目的を持たないブリーダーさんの犬に比べると、ストレス下にさらされやすいということです。早い時期から、母犬とかほかのきょうだいたちからも引き離されて、いろいろつらい経験をしているのではないかということで、実際ペットショップに展示されるまでに、いろいろ輸送されて、ペットオークションのほうに掛けられてしまったりということで、そして最後には、小売りの店舗に並べられるということで、非常につらい思いをしているのではないかということが、あるのではないかと思います。

ただ、そういったペットストアの子犬のほうが問題を起こしやすいということは、それを実際サポートするエビデンスというのは、実はそんなにたくさんはございません。まだ、こういった2件ぐらいしか、エビデンスとしてはないんです。

また、そのサンプル数も非常に少ない形になっています。頭数が、実際に非常に少なかったんですね。

とはいえ、このC-barqのデータを活用して、初歩的ではありますけれども、状況を見極めようというふうに試みたのが、こちらのグラフになっています。左から、これはペットの入手先なんですけれども、最初はブリーダーですね。つまり、商業目的でないブリーダーから入手した場合が、一番左。そして、そこからペットショップ、保護施設、友人・親戚、あるいは放浪していたところを保護・拾得された、その他というふうになっていますけれども。これを見ますと、ペットショップから入手した犬のほうが、はるかに飼い主に対して攻撃性が強いということが分かります。

●「非常に結果が悪い」ペットショップからの犬

こちらが、非社会的な恐怖心です。大きな音とかものを怖がるといった、状況の比較です。

それから、こちらが分離不安です。やはり飼い主から離れることによって、非常に不安があります。

こちらが、無駄吠えです。繰り返し吠え続けるといった、行動の状況を示しています。

それから、こちらが家で粗相してしまう。つまり、飼い主さんが家を出て、独りぼっちにされたときに、家の中でおしっこをしてしまうというようなことです。

もちろんいろいろな要素もあるということで、品種ですとか、性別ですとか、年齢ですとか、そういった変数もあるということで、そういった多変数を使った統計というものも試みてみましたけれども、実質的な複雑なところは割愛させていただきますけれども。結論を申し上げますと、ペットショップから入手した犬というのは、ブリーダーさんからもらった犬に比べて、非常に悪い。つまり、問題行動上において悪い結果が出ました。場合によっては、かなり差のある項目もありました。

つまり、いろんなほかにも変数、影響のある変数というのはあるかもしれませんけれども、とはいえ、やはりペットショップからの犬とブリーダーの犬には、これだけの差があるということが分かりました。

ここは、じゃあなぜこれだけ違いがあるのかということで、いろいろ違いは考えられると思います。遺伝的な要素もあるかもしれませんし、発生遺伝学的な要素があるかもしれません。またもちろん、犬たちはその犬ごとに、幼いころの経験というのはいろいろ違うでしょうから、例えば離乳の時期になったとか、早い時期に母犬から引き離されてしまったとか、そういった影響もあるでしょうし、社会化を早く進めすぎてしまったのかもしれない。あるいは、ペットショップで犬を買うような人と、ブリーダーから犬を買いたいと思うような人は、ちょっと考え方、種類が違う人たちなのかもしれません。つまり、飼うことに対する思い入れが違うですとか、例えばペットショップから買う人は、軽い気持ちでショップに出かけて、いわば突発的に気に入った子犬を買ってしまうというふうな、性癖があるのかもしれません。

●いつ子犬は引き離されたのか

先ほどの、この1枚前のスライドの中で、われわれが特に注目したのが、母犬から早い時期に離乳したとか、早い時期に引き離されたところに、かなり着目いたしまして、実はそこでかなりはっきりとした結果が出ております。ご覧いただいているのが、子犬が何週齢のときに引き取られたか、つまり、子犬が入手されたときの週齢を示しているんですけれども。左の一番赤いのは、4週から6週齢で入手された場合、次は7から9週齢というふうになっています。

これを見ますと、下の横軸のほうに、左から、見知らぬ人に対する攻撃行動とか、飼い主に対する攻撃行動ですとか、ほかの犬に対する攻撃行動、非社会的な恐怖心、分離不安等ありますけれども、いずれを見ましても、6週齢前に入手された子犬の場合に、こういった問題行動の傾向が強く出ております。

これはどういったことでも、同じ傾向であります。こちらも、注意を引くとか、興奮しやすいとか、無駄吠えをするとか、家で粗相するとかいったものなんですけれども、やはり7週齢に達する前に買われてきた子犬というのは、やはりより多くの問題行動が見られていました。

ここで、例えばこの無駄吠えのところでは、16から18週というか、18週齢を越えた犬でもスコアが高く出ておりますけれども、これは驚くには値しないと思います。やはり社会化がうまく進んでいないということで、例えばシェルターから来た、どういった理由でシェルターにいたのか分かりませんけれども、何らかの問題行動があったからシェルターに入れられたのか、分からないんですけれども、どこかそういった気質を受け継いでしまっているということで、社会化がうまくいかなかったために、これだけの週齢になっても問題行動を起こしているということで、説明がつくんじゃないかと思います。

ちょっと変わっていますので、申し訳ありません。少しスライドを飛ばして、最後の結論のスライドに行きたいと思います。

●子犬をペットショップから買うことは重大なリスク要因

まず、結論その1でありますけれども。子犬をペットショップ、あるいは営利目的のブリーダーから買ってくるというのが、非常に重大なリスク要因になるということです。成人したあとですね。成犬になってからの問題行動を起こすという意味で、こういったところから入手するというのは、大きなリスクになるということが、結論のその1です。

そして、こういった問題というのは、年齢とか性別とか、あるいは品種、あるいは避妊・去勢手術の有無にかかわらず、こういった行動というものは進むということです。

ただ、先ほども申し上げましたけれども、いくつか違いにはいろんな変数があるかと思います。遺伝的な性質だったり、あるいは、早い時期、幼いころの逆境であったり、社会化が不十分であったり、あるいは飼い主の属性が違ったりといった、複数の変数はあるかと思います。

ただ、子犬が母犬から離される時期のタイミングの違いが、たとえ非常に小さいとしても、つまり、6週齢で離されるか7週齢で引き離されるかの違いということで、非常に小さな違いであっても、これが、あとあとになって行動に及ぼす影響というのは、非常に大きいです。

ここで、先ほどご紹介した、スコット、フューラー両氏の引用になりますけれども、ここで私はあらためて、この年齢のタイミングについては、赤字で書きましたように、6週齢から8週齢(生後42~62日)というところを、7週齢から9週齢(生後49日~69日)というふうに変えたいと思います。今は、とにかく7週齢(生後49~55日)に到達する前に、子犬を母犬から引き離すのはよくないということで、あらゆるエビデンスがそろっていますので、ここを7から9ということに訂正したいと思います。

私からは以上です。

 

 

◆ 質疑応答 ◆

 太田光明教授(以下、太田):まず、フロアのほうから、お聞きになった方から、質問を聞きたいです。何か聞きたい方はありますか。

質問者:社会化のことを、ちょっとお聞きしたいんですけれども。先ほどサーペル教授がおっしゃいました、親から引き離す6週齢、7週齢、8週齢のときが、最も社会化に適するときだとおっしゃった。この社会化は、どこでどのようにされたらいいのか。例えば母親ときょうだい犬のもとでされるべきなのか。そこで、新しい飼い主さんに直接届けられても、社会化ができるものなのか。当然、ペットショップでは社会化は不可能であろうと。その辺を教えてください。

ジェームス・サーペル教授(以下、サーペル):お尋ねに対しては、簡単にお答えするなら、理論的には可能だと思います。理論的には、ブリーダーのほうで子犬の社会化を促進するというのはできる。つまり、十分にボランティアさんがそろい、十分に時間を割いて、子犬とのやりとりに時間を割けるということであれば、理論的には可能です。ただ、私がここで伝えたい重要なメッセージというのは、それまで育ってきた環境、その7週齢に到達するまでに育ってきた環境からは、子犬を離してはいけないということでありまして。非常に早い、幼い時期というのは、非常にセンシティブな時期であります。

先ほど、スコット&フューラーのグラフをご紹介したのをご記憶かと思いますけれども、5週齢のところから避けるという傾向を見せるようになりまして、その5週齢から6週齢というのは、最も弱い時期というところで、一番難しい時期でもあります。この時期に得た影響というのが、成犬になったあとの行動に非常に影響を及ぼすということでありますので、ブリーダーさんのところで社会化はできますかというのは、理論的にはイエスなんですが、実際問題としては、それだけの時間もないでしょうし、振り向けられるだけのリソースもないんじゃないでしょうか。

太田:よろしいですか。

質問者:はい。ありがとうございます。

太田:ほかに。

質問者:太田先生に質問なんですけれども。犬の飼育頭数が年々減っているということを危惧されていまして、私は動物の保護団体で働いている者でして、より多くの方に犬をお渡ししたいという気持ち、それは、犬がいることで本当に家族が明るくなったりですとか、高齢の方が元気になったりということがある一方で、すごく気軽に、それこそ経済力がある程度ないと犬は養えないですとか、あとは、居住環境の問題もありますし、そういった問題があって、飼いたいってぱっと思った人に誰でも渡せないという状況もありますし、実際問題、そういうことって今起こってると思うんですが。それとのジレンマっていうんですか。それに対して、太田先生はどのようにお考えでしょうか。

太田:今、ペットフード協会が調査を毎年しているんですけど、そのときに、だんだんと特に犬が高齢化してて、逆に若い犬が大変少ないという状態。今現在もね、そうなってきます。そうすると、何年かたつと、この年を取った犬がごそっといなくなるんですね。そうすると、先ほどのような話が現実的に、現在の犬が半分に減ってしまう可能性がある。何とかそれを避けるための、工夫をしなくちゃいけない。

そのときに一番、犬を飼う、あるいは猫も同じなんですけど、健康上の恩恵を受けるのは実は高齢者なんですね。私ぐらいの年齢だったんです。ただ、その人たちが結構躊躇しています。やっぱり自分が死んでしまう。そのときに、犬の面倒を見れない。先ほどの話と同じようなことがあると思うんですけど。それを何とか社会の中で工夫して、飼えるような環境をつくってあげないと、今言ったように、一番影響を受けるとか、恩恵を受ける人たちが飼えないっていうのは、一番よくない。やっぱり考えるべきだと思うんです。それを考えないと、むやみやたらにカバーできないので、それが最初かなというふうに考えています。

ほかに、質問ありますか。どうぞ、もう1人。

質問者:サーペル教授にご質問いたします。いわゆる8週齢問題については、ヨーロッパとかアメリカの法制度の中では、8週齢ということで、法律の中で決まっている例が多くあるというふうに伺っています。ただ、今いただいたデータを拝見すると、7週から9週であれば、まあ望ましいという結果になっているので、例えばペット業界から見ると、じゃあ、8週齢ではなくても7週齢でいいじゃないかというふうな、議論が出てくるかと思うんですけれども、それに対して反論する必要があるのかどうか。もしくは、7週から9週となっているけれども、8週齢のほうがやはり望ましいと考えるのか。その点について、お聞かせいただければと思います。お願いいたします。

サーペル:今のご質問なんですけれども、確かに8週齢というのは、7週齢から9週齢の真ん中ですので、「8週齢規制」をすると決められるのなら、それは良いことだと思います。私は個人的には、最適なタイミングは、7週齢から9週齢のちょうど真ん中である8週齢だと申し上げています。新しい飼い主のもとに行くのは、推奨としては8週齢です。確かに最適なタイミングというのは8週齢というのは、申し上げているんですけれども、じゃあ、違うのかと。7週齢と8週齢と9週齢と、どのくらい違いがあるのかということなんですけれども、それは、実は正確なところは分かりません。

ただ、7週8週9週、それぞれ若干の違いはあるかもしれません。ただ、その違いというのは、7週齢前の状態に比べると、そことの違いは非常に大きいので、それに比べると小さいということです。なので、新しい飼い主のもとに行くのが、推奨としては8週齢ということなんですけれども、と同時に柔軟性があってもいいのではないかとは思います。平均的には8週齢。

ただ、問題となるのは、これは、現在の米国の法制度でもそうなんですが、実際に子犬の年齢というのは、言うのは非常に難しいんですね。なので、ペットショップに行って、この子は8週齢ですと言ったときに、「もっと小さく見えるけど」と言っても、「いや、8週齢ですよ」と言ったら、まあ、そんなもんかなと思ってしまうということで、その専門知識ですか、つまり、6週齢と8週齢の違いを見分けられるのかというところが、非常に問題にもなっていますし、当然、業者のほうでは法律をねじ曲げるといいますか、幼くして、もしそれが売れれば、それにこしたことはないので、6週齢で売れてしまえば、それは業者としてはいいわけなので、そこの見極めというか、年齢の違いを言えるだけの専門知識が十分にあるかというところが、問題になっているということも、紹介しておきたいと思います。

太田:私が聞きたいことをお聞きになったので。現在の環境省の、いわゆる法律の中で、今現在は6.5週になってきます。これは、あと2年後、法律が施行されてから3年後ですけど、これは7週になります。ここまでは決まってるんです。だから、2年後からは7週。問題は、そのあと8週になるかどうか。彼は、8週以降になったらどうかっていうのを、現在、環境省の中で議論があるのは、研究をして、調査をして、8週齢かどうかを決める。

私も中央環境審議会動物愛護部会の臨時委員の1人ですし、その研究を実際に主にやるのは、私の大学の菊水教授なんです。同じ7号館の、私は2階にいて、菊水先生は3階にいるので、2~3日前に議論しました。

既に環境省は研究の方向性を決めています。それは、きょう紹介した C-barq によって調査を続ける。で、もう決まってて、なおかつ、そもそも対象者を1年間に3000人を募集して、もう既に3000人ぐらい集まったそうです。で、来年の1月から調査を始めるということも決まっています。これ以降は決まってないんですけど、取りあえず菊水先生に聞いたことよれば、それを5年間。したがって結論が出るのは、来年の1月から5年後。もちろん、こういう議論はまだ環境部会のほうでしていませんので、その辺はご考慮いただきたい。

ただ、ペンシルバニア大学のジェームス・サーペル先生に来てもらったかというのは、C-barqで何が分かったというのも一つです。それから、既に環境省が決めているので、決めたものは、今さら私としてもどうしようもないので、これで何が分かるかということを、ぜひ知ってほしい。それと、もう既に対象者を3000人。これを5年間もしやるとすれば、1万5000人になります。そうすると、これはジェームス・サーペル先生と話をしましたけども、それだけの例数でやれば、それなりの結論が出るだろうということであります。大半が決まっているので、まあ仕方ないだろうなと。

ただ、幸いにして、7週齢は決まっているので、あとは、いつどの時期に8週齢にするかという議論になると思います。ここまでは私が言える。明らかに。せっかくの機会です。どうぞ。

質問者:地域、環境によって調査対象が違って、その国ごとに決めなければならないことがあるとか、犬の育成方法とか、育てる民族、人種によって、何か変わってくることがあるんですか。これまでの研究の生かせる点はないのでしょうか。

太田:実は先ほどの C-barq、それは当然、英語で書かれているんですが、それを5年ぐらい前に、私の大学の先生が全部日本語にしたんです。現在それを使って、もう既に日本語バージョンが出てるので、それで皆さんが犬を飼っているのであれば、C-barq に答えることがあるようなデータがあります。ただ、環境省で今現在分かっていることは、C-barq を扱う、細かい中身ですね。多少モディファイすることになると思います。その辺は始まってます。ただ、C-barq の中身を変えていいのかどうか。

質問者:ありがとうございました。麻布大学が募集した3000頭っていうのは、募集なんですか。それとも、こっちから選んだんですか。思うのは、犬を捨てるような飼い主は登録しようと思わないと思うんですけれども。

太田:誰が対象者になってるか、詳細については、環境省の動物愛護管理室しか知りません。これは、日本獣医師会とか、あるいはさまざまな団体が協力して絞ったんだろうと思いますけど、基本的には本人の意思が重要視されますので、その辺の中身については、麻布大学は関係ないです。

質問者:それだけ時間がかかるということは、今度の法改正には反映できないということになるんですか。

太田:そのとおりだと思います。ただ、一応、原則5年ごとに見直すってことですけど、過去も6年になったこともあるし、まあ、7年はありませんけど。その辺は、本当にわれわれがやるのかどうかっていうことに関しては、まだ議論されていないので。今の話は、菊水君から聞いたんです。彼が、今言ったように、主任研究者ですので、彼がそのように環境省から言われている。何かご意見があったら、私も委員の1人ですし、それから、環境省は一応オープンにしていますから、ぜひ聞いてやってください。

はい、どうぞ。これが最後の。

質問者:サーペル教授にお伺いしたいんですが。先ほどのプレゼンテーションの中で、いろんなトレーナーさんとか、それぞれのやり方でうまく交流がはかれていないとか、それが、自分の考え方を主張しておられる。そういった現状の中でも、先生が開発されたC-barqを実際に導入して、科学的にというか、データを取りながら、トレーニングとかしつけとかをやられている方が、いらっしゃいますか。

サーペル:確かに、これまでそういったトレーナーさんですとか行動学者のほうで、診断ツールとして活用しているという例はあるんですね。で、そのオーナーさんのほうに、犬の評価をしてもらって、それを受けて、しつけとか訓練するというのがありますし、あと、そのフォローアップもしたりして、実際その問題行動の状況が改善したという例もあるんですけれども。で、トレーナーで介入をしたり、そういったこともされています。

ただ、実際にC-barqそのものは、期待してたほどに、トレーナーさんとか行動学者に使ってもらってるかというと、それほどではないというのは、やはり背景として、既に自分たち自身のやり方っていうのを持っていて、自分たちで質問票を用意して、犬を評価するというのを、持っていらっしゃる方もいるんですけれども、拝見したところ、それはやはり、非常に長い質問票ですね。C-barqの1つのメリットは、これは15分ほどで埋めることができる質問票なんですけれども、私が見たのは、1時間以上もかかるというようなものだったんですが。いずれにしても、そういったこれまでのやり方を変えるように人を説得するというのは、非常に難しいという現状はあります。

質問者:ありがとうございました。

太田:時間になりましたので、これで終わりたいと思います。司会の上野さんにマイクを返します。

 

◆ 閉会あいさつ ◆

TOKYO ZEROキャンペーン顧問:蟹瀬誠一・明治大学国際日本学部教授

 最近は、妻とのアイコンタクトよりも愛犬とのアイコンタクトのほうで、ハッピーホルモンが高まっています。

今日は、本当に長い時間ありがとうございました。まずお礼を申し上げたいと思います。また、お二人のパネリストの方、大変ありがとうございました。

物事には、目的と手段、これがすごく大事なんですけども、このTOKYO ZEROの場合は、目的ははっきりしております。東京オリンピックを開催する2020年までに、東京で、動物、特にペット、不幸な犬猫をゼロにしようと。ただ、手段に関しては、なかなか、いろいろな道があって難しいところはあると思うんですね。ただ、一つ大事なのは、皆さまのようにそういう意識の高い方々が、どんどん声を上げていって、そして行動していって、その声が大きくなって、やがて行政を動かすというようなこともできますので、ぜひこれからも、このTOKYO ZEROの活動に積極的にご参加いただきたいと思います。

本日はどうもありがとうございました。

以上


みんなで声をあげよう

95,575
が賛同しています

ネット署名はChange.orgを活用しています。ボタンをクリックすると当サイトを離れ、Change.orgに誘導します。

サポーター募集

あなたの助けが必要です
今すぐネット寄付
被災地熊本での活動支援